2004N722句(前日までの二句を含む)

July 2272004

 ダブルプレーに人生のあり極暑なり

                           馬渕結子

語は「極暑(ごくしょ)」で夏。読んで字のごとし、暑さの極みを言う。また今日22日は二十四気の一つ「大暑(たいしょ)」という日にも当たっており、暦の上でいちばん暑い日とされてきた。年によって「極暑」と「大暑」とは実感的にずれたりするけれど、まさに今年はどんぴしゃり。それこそ、私たちは鮮やかな「ダブルプレー」をくらったようなものである。句は、高校野球を詠んだものだ。私は野球を人生の比喩に使うことを好まないが、それでもたまには掲句のように思わされてしまうことはある。せっかく芽生えかけたチャンスが、ちょっとした失敗から元も子もなくなってしまう。そして、むしろ以前の状態よりも悪くなるのだから始末が悪い。こういうことは、一度ならず体験した。暑さも暑し、泣いても泣ききれない状況には、たしかに人生に通じる何かがある。プロ野球とは違って、明日無き戦いを強いられる高校野球ならではの苦い味である。作者の略歴を見ていたら、唱和二十年九月の項に「東京女専戦災の為中退」と短く記されていた。作者に限らず、当時学業半ばにして学園を去った人々は数知れないほどいただろう。こうなるともう「ダブルプレー」なんてものじゃない。野球的比喩などでは追いつけぬ無念の「人生」を歩んだ人々に、今年もまたあの極暑の日々がめぐってきた。『勾玉』(2004)所収。(清水哲男)




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